高倍率での観察

スライドを低倍率(4倍または10倍対物レンズ)で観察した後、炎症細胞浸潤巣を高倍率で観察する。通常は20倍対物レンズを使用し、リンパ球浸潤巣周囲の心筋細胞傷害を検索する。低倍率で問題のない部分に関しては、必ずしも高倍率で観察する必要はない。本セクションでは、心筋細胞傷害、炎症細胞浸潤の同定、および間質に認められる所見等、高倍率での観察について解説する。

心筋細胞障害の確認

 

リンパ球浸潤が認められた場合、次に行うべきことは心筋細胞障害の評価である。不十分な固定により心筋細胞障害と紛らわしい変化が生じる場合があり、観察された心筋細胞障害/壊死が急性拒絶反応と関連したものか否かの判定は困難なことも多い。心筋細胞傷害は組織学的にごくわずかであることも多く、組織の深さを数段階変えて作製した切片による評価が必要である。ACRに関連した心筋細胞傷害の形態学的特徴として、細胞質の空胞変性、核周囲明庭、核周囲細胞質の消失、心筋細胞内へのリンパ球浸潤とそれに伴う心筋細胞境界の不明瞭化、心筋細胞の脱落と同部位における高度の炎症細胞浸潤および細胞外マトリックスの増加が挙げられる。細胞質の好酸性の増強や核の濃縮像も、心筋細胞傷害の良い指標となる。尚、心筋細胞融解と凝固壊死は虚血性障害を示唆する所見であり、拒絶反応とは区別して記載する。

Myocyte injury Myocyte injury Myocyte injury

心筋細胞傷害を示唆するその他の所見として、サルコメア構造の変化が挙げられる。正常の心筋細胞では筋原線維の配列は保たれているが、その配列が乱れ、細胞質の好酸性変化や萎縮が認められる場合、心筋細胞障害が示唆される。また、マッソントライクローム染色では正常心筋が好酸性を呈すのに対し、障害されて間もない心筋は萎縮して青みを帯びた灰色に染色されるため、同染色は心筋障害の識別に有用である。

心筋細胞障害により生じるこれらの変化には、常にリンパ球の浸潤が認められる。リンパ球浸潤が認められない場合には、観察された心筋細胞傷害は拒絶反応により生じたものではなく、移植後数週間以内に観察される虚血性傷害 など他の要因が関与している可能性がある。

単一レベルで作製した切片の評価のみでは、誤って心筋細胞障害と診断されてしまう可能性がある。このため、数段階の深さで切片を作製し、心筋障害が他のレベルにおいても同様に存在することを確認することが望ましい。

間質における細胞浸潤の同定

 

生検標本には、心筋細胞以外に様々な細胞が認められる。最も重要な所見は、急性拒絶反応の際に認められる炎症細胞浸潤であり、T細胞(CD4 +およびCD8 +)を主体とし、マクロファージや少数の好酸球もまじえた細胞浸潤である。中等度から重度の拒絶反応の際には、活性化B細胞、ナチュラルキラー細胞の増加も認められる。

しかし、間質に認められる細胞成分が、全てリンパ球というわけではない。従って、細胞性拒絶反応を除外するためには、細胞浸潤が疑われる部分を高倍率で観察し、その詳細を評価する必要がある。間質には線維芽細胞や筋線維芽細胞、原始間葉系細胞、樹状細胞、肥満細胞、内皮細胞および周皮細胞なども存在し、少数のリンパ球やマクロファージは、正常心筋でも観察される場合がある。一般的に、心筋内で集簇するのはリンパ球のみである。

Interstitial cells Interstitial cells Interstitial cells

炎症細胞浸潤の特徴

 

心移植後の心内膜心筋生検で認められる炎症細胞の種類は、拒絶反応のグレードの決定要因であるのみならず、細胞性拒絶反応を他の病態と鑑別する際にも重要である。急性細胞性拒絶反応の場合、常にリンパ球(T細胞)が存在することがその特徴である。活性化リンパ球は重度の拒絶反応で増加し、また細胞質の増加が認められる。

好中球と好酸球を混じえた炎症細胞浸潤は、通常高度の拒絶(3R)を示唆する所見である。好中球は移植後数週間以内に認められる虚血性壊死の際にも観察される。

中等度(2R)または重度(3R)の拒絶では、心筋壊死とともに少数の好酸球が散在して認められる。しかし、軽度(1R)の拒絶で 好酸球が観察されることはまずない。このため、好酸球が認められる場合には、中等度または重度(2R、3R)の拒絶の可能性を常に考慮すべきである。

Eosinophils Eosinophils Eosinophils

また、好酸球は、薬剤と関連するHypersensitivity myocarditisの際にも認められる。この場合、リンパ球や形質細胞、マクロファージ等も出現するが、炎症細胞の主体は好酸球であり、好酸球の集簇像が観察される場合もある。局所的に心筋細胞融解が認められることもあるが、壊死は特徴的所見ではない。尚、好酸球は寄生虫感染の際にも認められる。

Eosinophils Eosinophils Eosinophils

間質の評価

 

間質における細胞成分の増加や浮腫を確認するためには、高倍率での観察が必要である。高度の炎症細胞浸潤と共に、細胞の残骸や核の断片、好塩基性あるいは好酸性の不定型の物質が認められる場合、心筋細胞傷害やアポトーシスとして矛盾しない所見である。移植後早期では周術期の虚血傷害と関連する場合が多いが、移植後後期においては拒絶反応を示唆する有用な所見である。

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心移植後の生検に認められる間質の浮腫 は、抗体関連拒絶反応の徴候である場合がある。しかし、生検標本の取り扱いや処理により生じたアーチファクトにより個々の心筋細胞が離開し、一見浮腫のように見える場合もあるため注意を要する。真の浮腫であれば、離開した心筋細胞の間には、非常に微細な細胞外基質が存在する。また、抗体関連拒絶反応の際に生じる浮腫は、血管内皮細胞の腫大や間質のマクロファージ、出血等の他の所見を伴う場合が多い。

心筋細胞融解(移植後冠動脈病変)

Myocytolysis

心内膜下において、局所的あるいはびまん性に心筋細胞の空胞変性や心筋細胞融解が認められる場合、可逆性の虚血障害が示唆される。心筋細胞融解が生じた場合、核小体の目立つ腫大した核が認められ、筋形質と核は明るく抜けたように見える。もしこのような所見が移植後1年以上経過した症例の生検で観察された場合、移植心において急激に冠動脈狭窄が進行している可能性がある。

抗体関連拒絶反応の際に認められる内皮細胞の変化

抗体関連型拒絶反応の診断基準は、本チュートリアルの別のセクションで解説されている。ヘマトキシリン・エオジン染色標本では、低倍率で毛細血管が目立つ場合にAMRが疑われる。高倍率での観察は血管内皮細胞の評価に有用であり、内皮細胞の腫大や核の腫大・濃縮像が認められた場合にはAMRが示唆され、免疫グロブリンと補体に関する検討が必要である。

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