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低倍率での観察

本セクションでは、低倍率(2倍~10倍)での観察(細胞密度、間質、心筋細胞、血管など)について解説する。

適切な生検標本

adequacy 低倍率で最初に観察すべきことは、拒絶の評価に適切な心筋が採取されているかである。心移植後の症例は、拒絶の検索のために生検を何度も施行されている場合が多く、標本の一部あるいは全体に、以前生検を行った部位の組織が含まれる場合がある。例えば、器質化血栓や肉芽組織、線維化(心筋細胞を含まない場合と配列の乱れた心筋細胞を含む場合がある)が認められる場合、その標本は過去に生検を行った部位から採取されている可能性が高い。 適切な評価, のためには最低3個の組織が必要であり、各々の組織が以前の生検による影響のない心筋を、少なくとも50%以上含む必要がある。心筋以外の組織(, 腱索, 脂肪組織など)が認められた場合には、その旨も記載する。

生検標本の細胞密度

 

適切な生検標本が採取されていることを確認した後、低倍率で評価すべき主要な点は、1)細胞成分の増加の有無、2)細胞浸潤の部位とパターン、3)細胞浸潤の全体的な印象、4)高倍率で評価すべき部位、すなわち細胞密度が増加している部位の特定である。急性細胞性拒絶反応の際に認められる組織像はさまざまであるが、最も高度な病変部位を同定するには低倍率での観察が適している。正確な診断のためには、組織の深さを何段階か変えて標本を作製して評価することが重要である。

focal infiltrate mild diffuse infiltrate heavy diffuse infiltrate

生検標本における細胞密度の増加は、通常容易に同定可能である。炎症細胞浸潤は局在性あるいはびまん性の分布パターンを示すが、炎症が血管周囲性であるのか、あるいは心筋細胞間に金網状(“chicken wire fence”pattern)にびまん性に入り込むパターンであるのかについても、低倍率で評価可能である。ただし、他の多くの形態学的特徴の評価と同様に、これらの所見は主観的な評価に基づく場合も多い。

Perimyocytic infiltrate Perimyocytic infiltrate Perimyocytic infiltrate

炎症細胞浸潤の部位、およびそれらの心筋細胞への影響を評価することにより、基本的な病態を把握することが可能である。急性細胞性拒絶反応(ACR)の際、リンパ球浸潤は心筋細胞の周囲 や血管周囲に認められる。心内膜あるいは線維組織に炎症が存在する場合、虚血性傷害, Quilty 効果 あるいは以前の生検部位 が採取された可能性を考慮する必要がある。心内膜の表面やその近傍にリンパ球浸潤が観察される場合、ACRとQuilty効果との鑑別は困難となるが、高度のACRは心筋細胞周囲に細胞浸潤を伴う傾向にあることが鑑別の手がかりとなる。

Surface endocardial infiltrate Surface endocardial infiltrate Surface endocardial infiltrate

心内膜に沿ってリンパ球の大結節性集簇巣をみた場合、"Quilty効果" とよばれる。Quilty効果は心内膜に限局する場合と心筋層に進展する場合があるが、心筋層に向かって膨隆するように浸潤し、周囲の心筋細胞との間に比較的明瞭な境界を示す密なリンパ球浸潤が低倍率で認められた場合、Quilty効果として矛盾しない。リンパ球浸潤を心筋細胞周囲に認めた場合、必ず高倍率で心筋細胞障害の有無を検索する必要がある。

心筋細胞

 

“心筋細胞傷害” (myocyte injury) には、ごく軽度の退行性変化から細胞死に至るまで、幅広い病態が含まれているが、生検標本におけるその診断は必ずしも容易ではない。心筋細胞障害を正確に診断するためには、高倍率で病変を観察する必要がある。

心筋細胞への炎症細胞浸潤や、炎症細胞が心筋細胞を覆う像が低倍率で観察された場合、心筋細胞傷害と診断される。炎症細胞浸潤により、心筋細胞の境界は不整になり、心筋の構造にも変化が生じる。心筋細胞内あるいは心筋細胞周囲に認められる炎症細胞浸潤をみた場合、その標本をより慎重に評価する必要があることを示している。生検鉗子に挟まれ損傷を受けた組織においては、リンパ球浸潤の評価に注意を要する。

Low power view of myocyte injury Low power view of myocyte injury Low power view of myocyte injury

周術期の心筋虚血や慢性期の移植心冠動脈病変に起因する虚血性傷害により、心筋細胞に凝固壊死が生じる場合がある。ごく微小な虚血性障害は、低倍率ではACRとの鑑別が困難なことも多いが、大きな病変は凝固壊死を呈し、心筋細胞は様々な程度に破壊され核が消失するため、その診断は容易である。病変の大きさに関わらず、虚血性病巣はしばしば周囲にマクロファージ、リンパ球、まれに好中球の浸潤を伴う。これらの領域は境界明瞭な放射状の病変として認められる場合もある。壊死に陥った心筋細胞はトリクローム染色により紫色を呈するため、同染色は心筋障害の検出に有用である。

Trichrome staining Perimyocytic infiltrate Perimyocytic infiltrate

心筋細胞に空胞化が認められた場合、慢性虚血による心筋細胞融解 を反映している可能性がある。アーチファクトとして観察される収縮帯(contraction band artifact), は、心筋細胞融解と紛らわしいため注意を要する。特に低倍率の横断標本において、収縮帯のある濃い色調を呈する心筋と収縮帯の無い薄い色調の心筋が格子状に認められ、薄い色調の部分があたかも融解した心筋細胞のように見える場合がある。このような所見を認めた際には、アーチファクトの可能性も考慮し、慢性虚血の診断は慎重に行うべきである。

間質

 

前述した 細胞密度の増加 以外に、低倍率で間質に認められる所見は、主に浮腫と線維化である。浮腫は重度のACR(Grade 3R)や心不全、AMRの際に認められ、間質は疎で淡い好塩基性を呈し、血管周囲や心筋細胞周囲のスペースが明瞭となる。これらの所見が認められた場合、抗体関連拒絶反応に関連する血管病変の有無を高倍率で検索する必要がある。切片の作成過程で大小の間隙が心筋細胞間に生じ、浮腫と紛らわしいこともあるが、心筋細胞間に細胞外マトリックス成分がわずかでも存在しない場合はアーチファクトであり、浮腫と混同してはならない。

Edema Edema Edema

Artificial clearing Artificial clearing Artificial clearing

間質の線維化は、心筋が広範囲に脱落した後に生じる置換性線維化であることが最も多く、通常以前の生検部位やその周辺から採取された組織において認められる。 以前の生検部位に生じる組織学的変化 は、すでに別のセクションで解説されている。心筋虚血の治癒後や慢性心筋虚血により生じた瘢痕組織は、以前の生検部位における瘢痕組織との区別が困難である場合が多い。低倍率で放射状の瘢痕組織が認められた場合、引き続き高倍率で慢性虚血を示唆する所見が他にないか検索すべきである。ただし、虚血性病変の有無に関わらず、間質の線維化はACRの特徴的な所見ではない。

Fibrosis Fibrosis Fibrosis

Presence of vasculature

 

アーチファクトにより血管内に別の血管が入れ子状に入り込むと(telescoping of blood vessels). 冠動脈病変と紛らわしい場合もあるが、基本的に心筋生検において移植心冠動脈病変を認めることは非常に稀である。また、標本内に大型の血管とともに脂肪や神経組織が存在する場合、心筋穿孔.を疑い高倍率での評価が必要である。血管病変の観察には高倍率での評価が望ましい。

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