拒絶反応以外の所見について

本セクションでは、生検標本に認められる拒絶反応以外の所見について解説する。稀な所見から非常に一般的な所見まで様々な組織学的所見が知られているが、これらの多くは拒絶反応と混同しやすく、むやみに拒絶反応と診断しないよう注意が必要である。

Quilty効果

 

心移植後の症例の約50%において、心筋生検標本にQuilty効果(最初に報告された患者の名前にちなんで名付けられ、以前はQuilty lesionと呼ばれていた)と呼ばれる所見が認められる。これは心内膜下に限局して認められるリンパ球の密な集簇で、隣接する心筋層に拡がって存在する場合もある。浸潤細胞は主としてBリンパ球とTリンパ球であるが、時に樹状細胞も含まれる。細胞浸潤を生じている部位には、小血管の増生もしばしば認められる。

Quilty effect Quilty effect Quilty effect

Quilty効果の成因は不明であるが、シクロスポリン主体の免疫抑制療法、シクロスポリンAに対する特殊な反応性変化、Epstein-Barrウイルス感染の関与等が示唆されている。腎臓、肝臓など、他の臓器移植後にシクロスポリンの投与を受けた症例の心臓にはQuilty効果は認められない。細胞性拒絶反応の重症度、ウイルス感染、抗体関連拒絶反応、あるいは移植心冠動脈病変と、Quilty効果との関連性について、過去に数多くの研究が行われてきたが、関連性に関しては意見の一致がみられておらず議論が続いている。またQuilty効果と何らかの病理組織学的所見あるいは予後との関連についても未だ結論が得られておらず、今後の検討が期待される。

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Quilty効果は、心内膜下に限局する場合と周囲の心筋層に拡がる場合がある。大きなQuilty効果は心筋細胞の間に浸潤して周囲に心筋細胞障害を生じ、拒絶反応と紛らわしい場合があり、ISHLT-1990基準においてgrade2と診断されている生検の多くが、実際はQuilty効果であると考えられている。このように、Quilty効果と急性細胞性拒絶反応の鑑別は非常に重要であり、複数の切片を作成して、リンパ球浸潤が心内膜にまで及んでいるかどうかを確認する必要がある(ただし、急性細胞性拒絶反応も心内膜に認められる場合がある)。小血管が細胞浸潤巣の内部に認められた場合には、Quilty効果である可能性が高い。また、Quilty効果の内部では、心筋細胞周囲に線維化が認められる場合が多い。

免疫染色を用いたリンパ球サブセットの評価もときに必要である。急性細胞性拒絶反応の際にはT細胞が優位となるが、Quilty効果ではB細胞、T細胞、マクロファージが混在する。抗CD21抗体をQuilty効果の同定に用いる場合もあり、もし陽性であればQuilty効果であることを裏付ける強力な根拠となる。ただし、CD21陰性だとしてもQuilty効果を否定できるわけではない。

Quilty効果が一部の標本において観察された場合、同時に採取された他の標本に認められる炎症細胞浸潤も、同様にQuilty効果である可能性が高い(ただし、急性細胞性拒絶反応の可能性を完全に除外できる訳ではない)。Quilty効果が消失する過程で、過去の生検部位から採取された標本と同様の組織像を呈する場合もあるが、以前の生検部位に由来する瘢痕組織は心筋層と不均一な境界を示すのに対し、Quiltyの消失過程に認められる瘢痕は、より均一な境界を示す傾向にある。

虚血性障害(周術期)

 

周術期に生じる虚血性傷害は、一般的に移植後6週間までの生検で指摘されることが多いが、術後3ヶ月に至るまで認められることもある。これらの病態は、急性細胞性拒絶反応との鑑別が困難な場合もある。虚血病変は、ドナーから心臓を摘出しレシピエントに移植されるまでの過程で生じ、大小様々な壊死巣として観察される。移植後初回の生検では、心筋細胞の好酸性の増加と核の消失等、非常に僅かな所見しか認められない場合も多い。壊死した心筋細胞は、免疫組織化学法または蛍光抗体法によりC4dに強い染色性を示すため、抗体関連拒絶反応と混同しないよう注意を要する。移植後慢性期に心筋細胞死が生じることもあるが、その場合リンパ球浸潤は伴わないため、急性細胞性拒絶反応との鑑別が可能である。移植後早期は強力な免疫抑制療法が行われるため、炎症所見に乏しい。

Early to mid ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury

一般的に移植後2-4週間で炎症所見が最も顕著となる。これはマクロファージの反応によるもので、炎症はしばしば広範となり、心筋細胞傷害を伴うことがある。虚血性障害と急性細胞性拒絶反応の鑑別において重要な点は、拒絶反応の際には主にリンパ球が浸潤するのに対し、周術期に生じる虚血性傷害では様々な炎症細胞が混在して認められることである。虚血性傷害が生じた場合、周囲の間質にも変性が認められる。ただし、同一標本の中に急性細胞性拒絶反応と虚血傷害の両方が観察された場合、両者の識別は困難である場合が多い。拒絶反応の重症度を高く(悪く)診断することは容易であるが、その結果不要な治療が行われたり、必要以上に生検を繰り返すことになるため、注意が必要である。

多くの虚血性傷害は、移植後一ヶ月以降に、微小梗塞巣の修復過程と類似した組織像を示し、ヘモジデリン含有マクロファージや疎な線維化、心筋細胞の局所的な消失などが認められる。急性細胞性拒絶反応との鑑別はさほど問題とならないが、以前生検を行った部位との区別は困難である。

Late ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury Ischemic injury

以前の生検部位と血栓

 

右心室の解剖学的な理由により、以前の生検部位と同部位、またはその周辺の領域から検体が採取されることは稀ではないため、心移植患者の生検では、以前の生検部位から採取している可能性を常に考えておかなければならない。過去の生検部位から採取された検体の組織像は、その前の生検がいつ施行されたかにより異なるが、新しい生検部位では心内膜が局所的に欠損し、その上にフィブリン/血小板血栓あるいは器質化血栓が覆い、炎症性細胞(マクロファージ、T細胞、B細胞)が認められる。修復過程では肉芽組織が観察され、最終的には心内膜に局所的な瘢痕が残存する。瘢痕組織周囲の心筋は配列が乱れ肥大し、錯綜配列を呈する場合もある。心移植後の症例は心筋生検を何度も施行されている場合が多いため、約14-70%の確率で過去の生検部位から組織が採取されると報告されている。

Biopsy site changes Biopsy site change Biopsy site Biopsy site Biopsy site Biopsy site Thrombus Thrombus Thrombus and fibrosis

過去の生検部位に認められる炎症細胞浸潤は細胞性拒絶反応ではないため、拒絶反応のように重症度判定はしない。従って、診断が拒絶なし(0R)の場合でも、過去に生検を行ったことによる炎症所見が標本に含まれる場合もあり得る。

 
 

血管内リンパ球

 

リンパ管にリンパ球の集簇像が認められる場合もあるが、その原因は不明である。急性細胞性拒絶反応との関連はないため、記載する必要はない。

 
Biopsy site Biopsy site Biopsy site
 
 
 

脂肪組織と中皮細胞

 
fat and nerve

脂肪組織は成分としては少量であるが、心筋の正常な構成要素であり、しばしば大きな血管の周囲に存在する。生検標本においても、ときに種々の程度に脂肪組織が認められる。脂肪組織とともに、緻密化されていない心筋が僅かに採取される場合があるが、これらの標本は右室自由壁に由来すると考えられ、急性拒絶反応の評価には適していない。尚、標本に脂肪組織が存在する場合、心筋穿孔を疑う必要がある。脂肪組織と接する、接しないに関らず、中皮細胞が認められた場合、または脂肪組織内に小さな神経が認められた場合、心外膜由来の脂肪組織が採取され、右心室穿孔を来した可能性が示唆される。心膜血腫を生じる危険があるため早急に臨床医へ報告すべきであるが、多くの心移植患者は心膜が心臓に癒着しており、致命的な心膜血腫に至るリスクは非心移植患者と比較して大幅に少ない。

 
 
 

心筋の石灰化

Calcifications

心移植後の症例において心筋細胞に生じる石灰化は、移植時の一時的な高カルシウム血症が原因と考えられており、極めて稀な所見である。また、時間の経過した以前の生検部位においても石灰化が観察される場合があるが、より高頻度に認められる石灰化は、急性または慢性腎不全に伴うものである。石灰化は組織学的に、個々の心筋細胞に生じる場合と集塊状に生じる場合がある。周囲に線維化を生じることはあるが、通常炎症は伴わない。石灰化が広範に生じると心機能に悪影響を及ぼす可能性があるが、急性細胞性拒絶反応との関連はない。

 
 

原疾患の再発

サルコイドーシス、巨細胞性心筋炎、アミロイドーシス、Chagas病、軽鎖沈着症など、心不全の原因となる疾患の一部は、移植心において再発すると報告されている。このため、病理医は患者の原疾患を常に把握し、その再発に注意を払う必要がある。特に、サルコイドーシスおよび巨細胞性心筋炎は、急性細胞性拒絶反応と組織学的に紛らわしい場合があるため注意が必要である。

 
 

感染症

心移植後の患者は免疫抑制療法により感染のリスクが上昇しているが、心筋生検にて感染所見が認められるケースは非常に稀である。サイトメガロウイルス(CMV)は、心筋生検で認められた例も報告されてはいるが、通常血液検査(移植前にCMV陰性であったレシピエントのみ)や心臓以外の臓器(食道など)の組織検体を用いた病理所見に基づき診断される場合が多い。ウイルス封入体が心筋生検標本に認められた場合、免疫組織化学法でCMVや他のウイルス感染を検索する。何らかの感染症が確認された際には臨床医へ報告すべきであるが、急性細胞性拒絶反応と混同してはならない。心移植患者はトキソプラズマ症を発症する可能性もあり、抗トキソプラズマ抗体を用いた免疫染色により、心筋内に増殖する緩増虫体(Bradyzoites)の検出が可能である。炎症所見は伴わない場合が多い。

 
CMV CMV CMV

 
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移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)

移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)は移植患者において極めて高頻度(最大6%)に発症するが、心筋生検でその診断を行うことは極めて稀である。組織学的には急性細胞性拒絶反応と類似し、Bリンパ球のシート状の集簇として認められる。通常EBV陽性であるため、PTLDが疑わしい症例ではin situハイブリダイゼーションによるEBVの検索および免疫組織化学法(CD20)によるB細胞の検出が必要である。急性細胞性拒絶反応と診断した後、治療に対する反応がみられない場合、過去に遡ってPTLDの検索が必要な場合もある。また、生検中に形質細胞が多数認められた場合、形質細胞性PTLDの可能性を疑う必要がある。稀ではあるが、T細胞リンパ腫によりPTLDが発症する場合もある。

PTLD PTLD PTLD

 
 

異物

foreign body

心筋生検を繰り返し受けた症例において、心内膜に異物型巨細胞の小さな集簇像が稀に認められる。生検鉗子を拭くために使用したガーゼの木綿糸等、偏光下で重屈折性を示す異物が観察される場合がある。

 
 
 
 
 
 

三尖弁あるいは肝組織の断片が採取された場合

tricuspid

約12%の症例において、心移植後数年間に三尖弁由来の心雑音が聴取される。心移植後に生じる三尖弁閉鎖不全症の主な原因は、うっ血性心不全、三尖弁輪拡大、肺高血圧などであるが、稀に生検鉗子が三尖弁を通過する際に弁尖が破れたり、あるいは鉗子が腱索にひっかかることで、弁閉鎖不全を生じる場合がある。このため、生検標本に弁尖や腱索の一部が認められた場合、臨床医への報告が推奨される。臨床的に問題となることは少ないが、採取された腱索組織が大きい場合、グラフト機能不全を発症する可能性がある。弁や腱索は、基本的に検体の長軸方向に弾性線維が配列した、細い紐状の線維性組織である。両側面に内皮細胞が認められる点が肥厚した心内膜との相違点であるが、両者の鑑別は困難なことが多い。

極めて稀ではあるが、生検鉗子が上大静脈から下大静脈を通過し、肝臓でサンプリングされてしまう場合がある。従って、スライドに肝組織が認められた際には、実際にその患者から誤って採取された場合、あるいは標本の作製段階で混入したアーチファクトの場合の、いずれの可能性もあり得る。

 
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